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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)4189号 判決

原告 中村照美

右訴訟代理人弁護士 千葉肇

右訴訟復代理人弁護士 岡崎敬

被告 鎌倉勲

〈ほか一名〉

主文

一  被告鎌倉勲は、原告に対し、六〇二万六一四円及びこれに対する昭和五九年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告中村克芙は、原告に対し、金六四九万八六六〇円及びこれに対する昭和五九年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告鎌倉勲に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告鎌倉勲は、原告に対し、金七四〇万四七六〇円及びこれに対する昭和五九年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告中村克芙は、原告に対し、金六四九万八六六〇円及びこれに対する昭和五九年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告鎌倉勲(以下「被告鎌倉」という。)は、昭和五七年六月ごろ、不動産の売買等を業とする東和建興株式会社(以下「東和」という。)に入社し、同年一〇月に営業部長、昭和五八年三月に営業本部長となって、同年一〇月ごろまで稼働した後同社を退社し、同年一一月ごろから同じく不動産売買等を業とする八千代観光株式会社(以下「八千代」という。)の常務取締役となったものである。

(二) 被告中村克芙(以下「被告中村」という。)は、昭和五七年及び五八年当時東和に宅地建物取引主任者として在職しており、昭和六〇年四月には同社の代表取締役となり、現在に至っているものである。

(三) 原告は、昭和九年生まれの公務員で、後記本件取引一以前には、不動産取引の経験はなかったものである。

2  本件各取引

(一) 取引一

(1) 東和の営業課長であった高田伸郎(以下「高田」という。)は、昭和五七年一〇月ごろ、原告方を訪れ、原告に対し、アンケートに答えた者のうち、一万人に一人の割合で芝居の券が当たると述べて不動産に関するアンケート調査を実施し、さらに、その約一週間後、再び原告方を訪れて抽選の結果右芝居の券が当たったので芝居見物の当日迎えに来ると告げた。

(2) 高田は、昭和五七年一一月一四日、東和の営業部次長であった安藤清繁(以下「安藤」という。)と共に原告方に右芝居見物の迎えに来たが、右芝居見物の前に原告を東和の本店へ連れて行き、同所でこもごも原告に対し、別紙物件目録一記載の土地(以下「土地一」という。)は将来観光で急速に発展していく地域にあって将来性があり、数年後には五倍以上の価格になるが、その際東和に依頼すれば東和が責任をもって売却を斡旋するなどと述べて、数時間にわたって土地一を購入するよう勧めた。その結果、原告は同人らの言を信じ、その場で東和から土地一を代金一八〇万円で買い受け、東和に対し、同日、五〇〇〇円、同月一五日に一七九万五〇〇〇円、同年一二月に所有権移転登記手続費用として一万四七八〇円を支払った。

(3) 被告鎌倉は、右(1)及び(2)の当時、東和の営業部長の職にあり、高田及び安藤の上司として、(1)及び(2)の行為を高田及び安藤に命じていたものである。

(二) 取引二

被告鎌倉並びに高田及び安藤は、昭和五七年一一月二一日、京王プラザホテルにおいて、東和主催のパーティーが開かれた際、別紙物件目録二記載の土地(以下「土地二」という。)に関し、前記(一)(2)同様の文言をこもごも原告に対して申し向け、土地二の購入を勧めた。その結果、原告は、同人らの言を信じ、その場で東和から土地二を代金一二〇万円で買い受け、東和に対し、同日、五〇〇〇円、同月二二日に一一九万五〇〇〇円、同年一二月二六日に所有権移転登記手続費用として一万九三五〇円を支払った。

(三) 取引三

被告鎌倉は、昭和五八年一月二六日、高田とともに原告を被告鎌倉の自宅へ招き、別紙物件目録三記載の土地(以下「土地三」という。)に関して、原告に対し、前記(一)(2)同様の文言を申し向けて土地三の購入を勧めた。その結果、原告は、被告の言を信じ、その場で東和から土地三を代金一六三万二〇〇〇円で買い受け、東和に対し、同日、一万円、同月二七日に一六二万二〇〇〇円、同年三月に所有権移転登記手続費用として一万四七八〇円を支払った。

(四) 取引四

被告鎌倉は、昭和五八年一二月九日、高田に命じて、原告宅近くの喫茶店において、原告に対し、別紙物件目録四記載の土地(以下「土地四」という。)に関し、前記(一)(2)同様の文言を申し向ける方法で原告に対して土地四の購入を勧めさせた。その結果、原告は、高田の言を信じ、その場で東和から土地四を代金一二〇万円で買い受け、東和に対し、同日、一二〇万円、昭和五九年二月に所有権移転登記手続費用として一万七七五〇円を支払った。

(五) 取引五

被告鎌倉は、昭和五八年一二月一〇日、原告を自宅に招き、自分が東和を退職し、これと同様の業務を内容とする八千代を新しく作ったことを告げたうえ、別紙物件目録五記載の土地(以下「土地五」という。)に関し、前記(一)(2)同様の文言を申し向けて土地五の購入を勧めた。その結果、原告は被告鎌倉の言を信じ、その場で八千代から土地五を代金七八万円で買い受け、八千代に対し、同日ごろ、六〇万円、同月一二日に一八万円、昭和五九年一月一二日に所有権移転登記手続費用として二万六一〇〇円を支払った。

(六) 被告中村の関与

(1) 被告中村は、東和のただ一人の専任の宅地建物取引主任者として、右取引一ないし四について、売買契約書をチェックしたうえこれに宅地建物取引主任者として記名押印したり、重要事項説明書を作成したうえそれに従って自ら又は担当営業社員らを介して土地一ないし四の売買についての重要事項を説明したりして関与した。

ところで、重要事項説明書の交付及びそれによる重要事項の説明は、土地購入者にとって取引の内容及び取引の相手方の信用性を判断するための重要な要素であるところ、右取引一ないし四についても、これらが成立する直前に行われ、原告が取引一ないし四の各契約締結の意思を確定するのに大きな影響を及ぼした。

(2) 被告中村は、取引一ないし四に関与するに当たり、原告に対し、土地一ないし四が、いずれも到底代金額に見合う価値のある土地ではないことを説明しなかった。

3  違法性

(一) 土地一ないし五(以下「本件各土地」という。)は、いずれも現実に利用可能性及び換金可能性がなく、実際にはいずれも前記約定代金額の一〇〇ないし四〇〇分の一程度しか価値のない土地であり、また、本件各取引の当時、数年後に数倍に値上がりする見込みは全くなかった。

(二) 本件各取引は、いずれも、本件各土地が右(一)のとおりの価値しかなく、また、値上がりも見込めないにもかかわらず、前記のとおりこれがあるように虚構の事実を申し向け、その旨誤信させてこれらの土地を原告に不法な高値で買い受けさせ、代金及び費用を支払わせたもので、違法なものである。

4  被告らの責任

(一) 被告鎌倉は、本件各土地がいずれも無価値であり、かつ、値上がりも見込めない土地であること等の事情を十分認識しながら、自らまたは部下である高田及び安藤を指揮して本件各取引を行ったものであり、原告に対し、不法行為責任を負うべきものである。

(二)(1) 被告中村は、土地一ないし四がいずれも無価値であり、かつ値上りの見込めない土地であること等の事情を十分認識しながら、東和のただ一人の専任の宅地建物取引主任者という立場を利用して、前記2(六)(1)のとおり東和の一連の詐欺商法の一環として、被告鎌倉らによる違法な取引一ないし四に関与し、原告の本件取引一ないし四の各契約締結の意思を確定するのに大きく影響を及ぼしたから、原告に対し、共同不法行為者として責任を負うべきものである。

(2) 被告中村は、東和のただ一人の専任の宅地建物取引主任者であるから、取引の対象となる土地の価値が売買代金と比較して著しく不相当な場合にはそれを買主である原告に対して説明する義務があるのに、これを怠り、取引一ないし四に関与するに当たり、前記3のとおり土地一ないし四がいずれも無価値でありかつ値上がりも見込めない土地であることを知りながら、原告に対し、右の点について何ら説明をせず、原告にこれらの土地を買い受けさせたから、取引一ないし四によって生じた損害につき責任を負うべきものである。

(3) 仮に右(1)または(2)の責任が認められないとしても、被告中村は、土地一ないし四がいずれも無価値であり、かつ値上りの見込めない土地であること等の事情を十分認識しながら、右のとおり、重要事項説明書の作成ないし重要事項の説明をしたこと又は売買代金の不当性につき説明をしなかったことにより、被告鎌倉らによる取引一ないし四の実行を容易にしたから、被告鎌倉らによる不法行為の幇助者として責任を負うべきものである。

5  取消の意思表示

原告は、平成元年一二月三〇日、東和の代表取締役である被告中村に対し、平成元年一二月二七日付準備書面をもって、東和による詐欺を原因として、本件取引一ないし四において締結された売買契約をいずれも取り消す旨の意思表示をした。

6  損害

(一) 原告は、取引一ないし四において、前記のとおり売買代金及び所有権移転登記手続費用名下に計五八九万八六六〇円を支出したが、土地一ないし四は無価値であるから、土地一ないし四の帰属如何、即ち右5の取消の意思表示をまつまでもなく右金員全額が損害となるが、仮にそうでないとしても、土地一ないし四の所有権は、前記5の取消の意思表示によって、東和に復帰したから、結局、右支出額がそのまま損害となる。

(二) 原告は、取引五において、前記のとおり売買代金及び所有権移転登記手続費用名下に計八〇万六一〇〇円を支出したが、土地五は前記のとおり現実には利用可能性ないし換金可能性はなく、実質的には無価値であるから、取引五に関しては、結局右支出額がそのまま損害額となる。

(三) 原告は、取引一ないし五によって生じた損害の賠償を請求するため、弁護士に対し訴訟委任をすることを余儀なくされたが、その弁護士費用としては、取引一ないし四について合計六〇万円、取引五について一〇万円が相当である。

7  よって、原告は、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告鎌倉に対し、七四〇万四七六〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年三月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、被告中村に対し、六四九万八六六〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年三月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことをそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

(被告鎌倉)

1(一) 請求原因1(一)の事実のうち、被告鎌倉が東和の営業部長、営業本部長となったこと及び八千代の常務取締役となったことは否認し、その余は認める。

(二) 請求原因1(二)の事実のうち、被告中村が東和の代表取締役となったことは知らず、その余は認める。

(三) 請求原因1(三)の事実は知らない。

2(一) 請求原因2(一)の事実のうち、(1)及び(2)の事実は知らず、(3)の事実は否認する。

東和における被告鎌倉の部下は一名だけであり、東和においては、二名を一グループとして活動し、各グループは他のグループと全く関係を持たず原則として話をすることすら禁じられていたのであり、高田及び安藤はいずれも被告鎌倉とは別のグループに属していたから、被告鎌倉が高田及び安藤に命令することはできなかった。

(二) 請求原因2(二)の事実のうち、原告主張のころ京王プラザホテルでパーティーが開かれたこと、そのころ原告が東和から土地二を買い受けたことは認め、原告が売買代金及び所有権移転登記手続費用を支払ったことは知らず、その余は不知ないし否認する。

被告鎌倉がパーティーにおいて原告と会った時には、既に右契約は成立していた。

(三) 請求原因2(三)の事実のうち、原告が、被告鎌倉方で東和から土地三を買い受けたこと、原告がその主張にかかる売買代金を支払ったことは認め、原告が所有権移転登記手続費用を支払ったことは知らず、その余は否認する。

(四) 請求原因2(四)の事実は知らない。

右契約は、被告鎌倉が東和を退社した後に締結されたものであって、被告鎌倉は全く関与していない。

(五) 請求原因2(五)の事実のうち、原告が原告主張の約定で八千代から土地五を買い受けたこと、右契約に被告鎌倉が関与したことは認め、その余は否認する。

3 請求原因3の事実はいずれも否認する。

4 請求原因4の事実のうち、(一)の事実は否認する。

被告鎌倉は、東和に入社後、東和から顧客に対する勧誘方法の指導を受けたがその際、東和の取扱物件の代金額及び将来の値上がりの見込み等につき一般的説明も受け、これをそのまま信じた。従って、本件各土地が無価値で値上がりの見込みもないこと及び本件各取引の違法性については認識していなかった。

また、被告鎌倉は、昭和五七年六月ごろ新聞広告を見て東和に入社するまで、不動産取引の経験を有していなかったから、東和から受けた説明をそのまま信じて本件各土地が無価値で値上がりの見込みがないことを認識しなかったことについて過失はない。

5 請求原因6は争う。

(被告中村)

1 請求原因1の事実のうち、(二)の事実は認め、その余は知らない。

2(一) 請求原因2の事実のうち、(六)(1)第一文及び(2)の事実は認め、(六)(1)第二文の事実は否認する。被告中村による土地一ないし四についての重要事項の説明は、原告がこれらの土地についての購入の意思を決定した後に行われたものである。

(二) 請求原因2のその余の事実はいずれも知らない。

3 請求原因3の事実はいずれも否認する。

被告中村は、土地二ないし四の付近に土地を所有しているが、江戸川税務署は、昭和六三年一月二六日、右土地を滞納処分として差し押さえた。これは税務署が右土地の価値を認めている証拠である。

4 請求原因4(二)の各事実のうち、被告中村が、東和のただ一人の専任の宅地建物取引主任者であったことは認めるが、その余の事実はいずれも否認ないし争う。

被告中村は、土地一ないし四がいずれも価値のない土地であることは認識していなかった。このことは、被告が北海道開発庁発行の資料その他の資料を検討した後、土地二及び三の近くの土地を、価値があるという信念を持って前記のとおり自ら買い受けこれを保有するに至ったことからも明らかである。

被告中村は、本件各取引の当時、本件各土地が値上がりしないことは予見できなかった。

また、宅地建物取引主任者には、取引の対象物の価値が代金に見合うかどうかを説明すべき義務はない。これは、右事項が、宅地建物取引業法三五条において、宅地建物取引業者が宅地建物取引主任者をして買主に対して説明させるべきものとされている事項に含まれていないことから明らかである。また、将来その土地が値上がりするか否か、どの程度値上がりするかは何人にも分からないことであり、宅地建物取引主任者として口にできることではない。

5 請求原因6は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  当事者

1  当事者間に争いのない事実に《証拠省略》を総合すれば、被告鎌倉は、昭和五七年六月ごろ、不動産の売買等を業とする東和に入社し、当初は営業課員として自分で営業活動を行ったほか、同年一〇月に営業部長、昭和五八年三月に営業本部長となって、部下を指揮し、または部下と共同で同年一〇月ごろまで同社の営業活動を行った後退社したこと、昭和五八年一一月ごろ、同じく不動産売買等を業とする八千代の設立に参画し、同社において常務取締役となり、営業の責任者として活動したことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  被告中村が、昭和五七年及び五八年当時、東和のただ一人の専任の宅地建物取引主任者として在職しており、昭和六〇年四月には同社の代表取締役となり、現在に至っていることは原告と被告中村間において争いがない。

3  《証拠省略》によれば、原告は、昭和九年生まれの公務員で、本件取引以前には、不動産取引の経験はなかったことを認めることができる。

二  東和及び八千代の営業活動について

《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

1  東和については遅くとも被告鎌倉が入社した昭和五七年六月ごろまでに、八千代については昭和五九年一一月の会社設立当初から、北海道所在の全く価値のない土地を他に売り付けて暴利を得るため、会社ぐるみで次のような商法(以下「原野商法」という。)を行っていた。即ち、

(一)  営業担当社員がアンケート調査と称して、各家庭を訪問し、家族構成、職業、年齢等、各家庭の資金力推定の基礎となる事実を聞き出した後、アンケート協力に対する謝礼として、観劇、歌謡ショー(以下「観劇等」という。)の無料招待者に抽選で選ばれるかもしれないと申し向けて退去し、その後、資金や預貯金がありそうで騙されやすそうな者(以下「被害者」という。)を選び出し、抽選もしていないのに観劇等の無料招待の抽選に当選したと言って、これらの者を観劇等に招待する。

(二)  東和及び八千代の幹部社員は、被害者を右観劇等への招待する日の朝、作戦会議と称して、営業担当社員に被害者の資金力、人柄等を報告させた後、各被害者に関し、担当者、売り付け坪数、代金額等を決めたうえ、営業担当社員をして被害者を観劇の前に東和及び八千代の物件説明会場に連れ出させる。

(三)  右物件説明会場では、被害者らが互いに話し合うことができないようにしたうえ、幹部社員が被害者らに対し、本当は建設計画のない虚偽の道路を印刷した釧路、十勝管内の地図や、物件所在地付近の土地が値上がりもしていないのに値上がりしているとの虚偽の内容に改竄した新聞記事の切り抜きの写し等を使用して、物件が二、三年後には必ず倍以上に値上がりすると断言したうえ、二、三年後には東和及び八千代において、責任をもって買値の倍以上の価格で転売の仲介をするか、又は責任をもって買い戻し、それ以前において被害者が急に現金を必要とした場合には、金利分を上乗せして買い戻すことを確約するなどし、その後、被害者毎に、営業担当社員が同様の資料を用い、同様の文言を申し向けて物件を買うように勧誘し、それでも被害者らが買い受けを渋っている場合には、更に、特別に社員価格で安くお分けすると言うなどして巧妙に被害者を欺罔し、被害者に物件を買おうとする気持ちを起こさせる。

(四)  被害者が物件を買おうとする気持ちになると、営業担当社員は、それまで説明会場で勧誘の様子を見ながら待機していた宅地建物取引主任者を呼び、被害者に対して重要事項説明書の交付及び重要事項の説明をさせた後、その場で手付金を払わせ、物件の売買契約を締結させる。

(五)  そして、被害者を観劇等に連れて行って営業担当社員がその幕間等に残代金の集金の打ち合わせをし、翌日残代金を回収し、その後、価値のない物件ではあるが、所有権移転登記手続を履行して被害者ら名義の登記済証を交付して安心させ、さらに、資産のある者に対しては、同様の方法で買い増しをさせる。

2  東和及び八千代が所有し、被害者らに売却した土地は、いずれも北海道所在の極めて価値の低い土地で、付近に開発計画等はなく、数年内における価格の高騰は到底見込めない土地であった。

以上の事実が認められる。《証拠判断省略》

三  各取引の経緯について

1  取引一について

《証拠省略》を総合すれば、以下の各事実を認めることができる。

(一)  東和の営業課長であった高田は、昭和五七年一〇月一三日午後四時ごろ、突然原告方を訪れ、原告に対して不動産取引等に関する簡単なアンケートを行ったうえ、アンケートに答えてくれた者を、約一万人に一人の割合で慰安会(内容は芝居の観劇)に招待する旨話して帰り、その約一週間後、再び原告方を訪れ、原告に対し、「一万人に一人という慰安会が偶然当たった。運がいいんですよ。」等と述べて芝居を見に来るよう勧誘した。

(二)  昭和五七年一一月一四日、高田及び東和の営業部次長であった安藤は、原告方を訪ね、会社の中の様子を見せたり業務内容を説明したりしてから観劇に招待すると述べ、原告を東和の事務所へ連れて行った。

(三)  高田及び安藤は、東和の他の営業担当社員が同様にして勧誘してきた客が三〇人ほどいる東和の事務所において、他の客と話をさせないようにしつつ、将来北海道内を新幹線が走る予定となっていること、ゆくゆくは土地一の付近の土地に民家が建って開けていくこと等を示す地図、新聞を見せながら、原告に対し、こもごも「東和で斡旋している北海道の土地は、今は山林であるが、だんだん開けて地価は上がっていく。」、「五年後には五倍以上の価格になるから是非買っておきなさい。」、「買い受け後、あなたが希望すれば、東和が売ってあげる。」、「銀行に積んでおくより得ですよ。」等と三時間以上にわたって執拗に申し向け、土地一の購入を勧めた。

(四)  その結果、原告は、高田及び安藤の話を信用してその場で土地一を代金一八〇万円で東和から買い受けることとし、同日、契約書を作成して手付金五〇〇〇円を支払い、翌一一月一五日に残代金一七九万五〇〇〇円、同年一二月に所有権移転登記手続費用として一万四七八〇円を支払った。

(五)  被告鎌倉は、右契約締結の際、高田及び安藤の上司として、右一連の勧誘行為を指示していたものである(なお、同事実については、これを直接的に明らかにする証拠はないものの、《証拠省略》によれば、鎌倉は詐欺被疑事件における被疑者として警視庁において取り調べを受けた際、自ら自分が東和に在職中、昭和五七年九月ごろから昭和五八年三月ごろまでの間、いわゆる原野商法により被害者に買い付けさせていた取引として、原告に対する「旭山、阿寒」の物件を挙げていることが認められるところ、土地一は北海道上川郡清水町字旭山所在であり、また、《証拠省略》によれば、原告が東和から買った旭山所在の土地は土地一のみであり、従って、被告鎌倉自身が土地一を原野商法により原告に買い付けさせたと認識していると認められること、前記一1のとおり、被告鎌倉は、取引一の当時、東和の営業部長であり、《証拠省略》によれば、昭和五七年一一月二一日、原告は高田から被告鎌倉を「自分の上司である。」と紹介されたと認められること、後記認定のとおり、取引二、三については被告鎌倉においても直接原告に対し、勧誘行為をしていること及び弁論の全趣旨を総合すれば十分推認できる。《証拠判断省略》)。

(六)  右のように高田らにより言葉巧みに欺罔され、錯誤に陥っている原告に対し、被告中村は、取引一の重要事項説明書(宅地建物取引業法三五条一項各号に記載された事項を内容とする定型用紙によるもの。以下同じ。)を作成し、取引一の売買契約書に記名押印する形で取引一に関与し、原告は契約締結の際、右重要事項説明書を受領したが、被告中村から直接、口頭では土地一についての説明は受けなかった。

2  取引二について

《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認定することができる。

(一)  東和は、昭和五七年一一月二一日、京王プラザホテルにおいて、東和から北海道の土地を初めて購入した者を招待してパーティーを催し、原告をこのパーティーに招待した。

(二)  右パーティーの最後に、賞品として、一度目に買ったときより東和の取り扱う北海道の土地を安く買う権利を与えるという内容のくじ引きが行われたが、原告は、そのくじ引きにおいて、一等に当選したと告げられた。

(三)  高田及び安藤は、パーティー終了後、原告を同ホテル内の喫茶店に招き、「前回よりずっと安くお分けしますから、ぜひお買いなさい。」「一回目より安くなった分だけもっと利益がある。」等と申し向け、話の途中で同喫茶店に現れ、高田により上司として原告に紹介された被告鎌倉は、紹介を受けた後、原告に対して、「僕はあなたと同じ団地に住んでいる。そして、団地内の少年野球チームの監督をしたり、団地の中の役員をやったりしていて、みんなに顔を知られているほうだ。僕の下で働いている人達だから信用しなさい。」等と申し向け、共に約一時間にわたって、土地二の購入を勧めた。

(四)  その結果、原告は、被告鎌倉、高田及び安藤の話を信用してその場で土地二を代金一二〇万円で東和から買い受けることとし、同日、契約書を作成して手付金五〇〇〇円を支払い、翌一一月二二日に残代金一一九万五〇〇〇円、同年一二月二六日に所有権移転登記手続費用として一万九三五〇円を支払った。

(五)  被告中村は、取引二の重要事項説明書を作成し、かつ、取引二の売買契約書に記名押印する形で取引二に関与し、原告は前記パーティーにおいて、右重要事項説明書を受領し、また、被告中村を紹介されたが、被告中村から、土地二について口頭で具体的な説明を受けなかった。

3  取引三について

《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認定することができる。

(一)  被告鎌倉は、昭和五八年一月二六日、挨拶方々突然原告方を訪れたが、その際、原告が、世間話のついでに東和から購入した土地の説明を求めると、原告を自宅に招き、被告鎌倉方において、高田とともに、原告に対し、前記1(三)と同様の地図、写真等を用い、前記1(三)及び2(三)と同様の文言を申し向けて、土地三の購入を勧めた。

(二)  その結果、原告は被告鎌倉の話を信用してその場で土地三を代金一六三万二〇〇〇円で東和から買い受けることとし、同日、契約書を作成して手付金一万円を支払い、翌一月二七日に残代金一六二万二〇〇〇円、同年三月に所有権移転登記手続費用として一万四七八〇円を支払った。

(三)  被告中村は、取引三の重要事項説明書を作成し、かつ、取引三の売買契約書に記名押印する形で取引三に関与し、原告は契約締結の際、右重要事項説明書を受領したが、被告中村から、土地三について直接口頭では説明を受けなかった。

4  取引四について

(一)  《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認定することができる。

(1) 高田及び安藤は、昭和五八年一二月九日、原告を電話で原告宅近くの喫茶店に誘い出し、同所において、前記1(三)と同様の文言を申し向けて土地四の購入を勧めた。

(2) その結果、原告は高田及び安藤の話を信用してその場で土地四を代金一二〇万円で東和から買い受けることとし、同日、契約書を作成して代金一二〇万円を支払い、同年二月に所有権移転登記手続費用として一万七七五〇円を支払った。

(3) 被告中村は、取引四の重要事項説明書を作成し、かつ、取引四の売買契約書に記名押印する形で取引四に関与し、原告は契約締結の際、右重要事項説明書を受領したが、被告中村から、土地四について直接口頭では説明を受けなかった。

(二)  しかしながら、被告鎌倉が高田及び安藤に対し、右勧誘及び契約締結を指示した事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

もっとも、《証拠省略》によれば、被告鎌倉が、前記取り調べにおいて、自らが、いわゆる原野商法により原告に対し、買い付けさせた「旭山、阿寒」の物件の金額の合計を約五九〇万円と供述していることが認められるところ、これは、取引一ないし四の売買代金及び所有権移転登記手続費用の合計である五八九万八六六〇円とほぼ一致すること、現に、前記1及び3認定の各事実のとおり、被告鎌倉は、取引四の前に三回にわたって自らまたは部下の高田及び安藤に命じて、原告に対して土地を買い付けさせていたことは認められる。しかし、前記一1認定のとおり、被告鎌倉は、同年一〇月中旬ごろ、東和を退社し、同年一一月には八千代の社員として活動していたこと、右《証拠省略》中の供述は、被告鎌倉が東和に在職中、昭和五七年九月ごろから昭和五八年三月ごろまでになした土地の売買についてのものであるところ、取引四は前記のとおり同年一二月九日に行われたものであること等の事実に照らすと、取引四は、その当時いまだ東和の社員であった高田及び安藤において、被告鎌倉の命によらず、自発的にもしくは東和の新たな上司の指示によって行った可能性も十分認められ、従って、前記認定事実のみでは、被告鎌倉が高田及び安藤に対し、取引四の勧誘及び契約締結を指示した事実を推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

5  取引五について

《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認定することができる。

(一)  被告鎌倉は、昭和五八年一二月一〇日、原告を自宅に招き、自分が東和を辞めて新たに八千代を設立してその常務となったことを告げ、「どうしてもお客さんが欲しい。」「恩に着る。」等と言ったうえ、前記1(三)及び2(三)と同様の文言を申し向けて、原告に対し、土地五の購入を勧めた。

(二)  その結果、原告は被告鎌倉の話を信用してその場で土地五を代金七八万円で八千代から買い受けることとし、同日、契約書を作成して手付金及び中間金として六〇万円を支払い、同月一二日に残代金一八万円、昭和五九年一月一二日に所有権移転登記手続費用として二万六一〇〇円を支払った。

四  本件各土地について

《証拠省略》を総合すれば、本件各土地の昭和六二年度における固定資産税評価額は土地一から五まで順に、三五九円、六五〇円、八九一円、八七二円、一三九円、相続税評価額は同じくそれぞれ二三二七円、二七七二円、三七九七円、四四五五円、六五三円に過ぎず、また、付近に開発計画等はなかったこと、東和及び八千代は、会社ぐるみで前記二のような原野商法を行っていたことを認めることができ、以上の事実によれば、本件各土地は本件各取引当時から現在に至るまで本件各取引代金額とは程遠い極めて価値の低い土地であって、しかも、各取引の当時においても価格の高騰は到底見込めなかったことが明らかである。

もっとも、《証拠省略》によれば、被告中村は、昭和五七年七月ごろ、土地二及び三の付近の土地を、昭和六〇年四月ごろ、土地四付近の土地をそれぞれ購入したこと及びこれらの土地を昭和六三年一月二六日、江戸川税務署が滞納国税及び滞納処分費を徴収するため差し押さえたことが認められ、被告中村は、これらの事実をもって本件各土地は相応の価値がある旨主張する。しかし、《証拠省略》によれば、被告中村は、昭和五六年ごろ新聞広告を見て東和に入社したことが認められるところ、前記認定のとおり、東和は会社ぐるみで原野商法を行っていたのであるから、被告中村もそのことを承知し、後日責任を追及されぬよう自分も被害者であるかのように装う可能性は十分あり、また、仮にそうでないとしても、《証拠省略》によれば、東和は新聞広告により採用した新入社員に対しても会社の物件を騙して買い付けさせていたことが認められるから、右昭和五七年ごろの売買は被告中村も騙されてなしたものというべきであり、また、税務署が差し押さえたからといって、そのこと自体からその物件の価値が高いとは必ずしも言えない。したがって、右各事実によっても、前記認定は到底覆るものではない。

また、八千代は、土地五を含む白糠郡白糠町字大楽毛一六番地を平米単価一〇〇六円(従って、土地五は六万六三九六円)で仕入れたことが認められるが、この価格でさえも、原告への売却価格の一一分の一以下の価格であって、前記認定を覆すに足りるものではない。

五  本件各取引の違法性

前記二ないし四認定の各事実によれば、本件各取引は、抽選に当たったと称して観劇等に無料で招待する等の手段を用いて、原告をして自分が幸運であり、かつ、被告鎌倉をはじめとする東和及び八千代の社員が信用できると思い込ませたうえで、原告に対し、本件各土地がいずれも極めて価値の低い土地であり、値上がりの見込みもないのに、詐言を弄してこれがあるかのように巧妙に見せかけたうえ、執拗に購入を勧誘して原告を誤信させ、各土地を不法な高値で買い受けさせ、売買代金及び費用を騙取したものであり、しかも、右行為は、いずれも東和及び八千代において周到に計画を立てたうえで社員の間で役割分担をし、会社ぐるみで組織的に行っていたものであって、極めて悪質で強度の違法性を帯びた行為である。

六  被告らの責任

1  被告鎌倉

被告鎌倉は、前記三及び五で認定したとおり、本件取引一ないし三及び五の違法行為を自ら、または他人に指示して行ったものであるから、右各取引によって原告に生じた損害につき、不法行為責任を負うものといわなければならない。

もっとも、《証拠省略》によれば、被告鎌倉は昭和五七年六月ごろ新聞広告を見て東和に入社するまで不動産取引を業とする会社に勤務したことがないことが認められ、また、《証拠省略》によれば、被告鎌倉は前記被疑事件における取り調べの際、係官に対し、東和に入社当初は前記二のような原野商法を行っていることに気がつかず、昭和五八年三月ごろになってこれに気付いた旨供述していることが認められる。

しかしながら、《証拠省略》及び前記一認定の各事実によれば、被告鎌倉と同様、新聞広告を見て東和に入社するまで不動産取引を業とする会社に勤務したことがなく、昭和五七年一〇月、東和に入社して被告鎌倉の直属の部下となった伊東茂夫は、昭和五八年一月ごろには東和の詐欺的商法に気付いていたこと、いわんや被告鎌倉は、昭和五七年六月に東和に入社後、同年一〇月には営業部長に昇進して、部下の指導をする立場にあったことが認められるから、昭和五八年三月ごろになって東和の詐欺的商法に気付いたという被告鎌倉の前記供述部分は到底信用できない。

仮に被告鎌倉が本件一ないし三の取引の当時、東和の原野商法に気付いていなかったとしても、同年一一月の取引一の時点以降においては、東和が会社ぐるみで行っていた前記二で認定したとおりの原野商法の実態について、既に容易に把握できる立場にあったと認められるから、これに気付かなかったのは極めて不注意であり、重大な過失があったものと言わざるを得ない。したがって、被告鎌倉は、その責を免れることができない。

2  被告中村

(一)  被告中村の責任の有無を検討するにあたって、まず、被告中村が、東和の原野商法において果たした客観的役割について判断する。前記二認定のとおり、東和の原野商法は、会社ぐるみで極めて組織的、計画的に行われていたこと、右一連の原野商法の過程において、被告中村は、被害者らが土地を買い受ける気持ちになった後、契約書を作成する直前に、自らが作成した重要事項説明書を被害者らに対し交付して重要事項について説明する役割を担っていたこと、宅地建物取引業者は宅地建物取引業法により、宅地建物取引主任者を一定人員配置する義務や、売買等の取引の相手方に対して宅地建物取引主任者をして重要な事項につき説明をさせる義務を負わされていること及び《証拠省略》を総合すれば、東和が一連の原野商法を実行し、これにより利益を上げるためには、東和が宅地建物取引業者としての免許を取得するとともに、適法な取引たる外観を作り出して、被害者を欺罔する必要があり、そのためには宅地建物取引主任者が存在し、かつ、その者が被害者に対し、重要事項の説明をすることが必要不可欠であったと認められるから、被告中村は、東和の唯一、専任の宅地建物取引主任者として、西村俊吾ら会社幹部の意図を受け、まさに右役割を果たしていたものと認めることができる。

そこで、被告中村が、東和の会社ぐるみで組織的計画的に敢行された原野商法による取引一ないし四について、現にいかなる態様で関与していたかを検討すると、被告中村は、原告に対して直接口頭で重要事項の説明をすることこそしなかったものの、東和における唯一、専任の宅地建物取引主任者として、売買契約書をチェックしてこれに記名押印し、原告に対し、重要事項説明書を作成して営業担当社員らを通じて交付する形で関与したことは、前記一2及び三において認定したとおりである。

そうすると、被告中村は、取引一ないし四においても、客観的には被告鎌倉、高田、安藤らとともに、東和が会社ぐるみで行った原野商法の重要な一部分を担っていたものと評価するのが妥当である。

(二)  そこで、次に、被告中村の主観的認識及び責任について判断する。

(1) 前記一認定の事実、《証拠省略》によれば、被告中村は、昭和五六年から東和の唯一、専任の宅地建物取引主任者として稼働していたこと、東和は、従業員が総勢四〇人程度、そのうち、営業担当社員は三〇人程度の会社であったこと、東和には、営業担当社員の部屋と経理及び総務関係の部屋があったが、被告中村は、毎週六日、朝八時ごろには出勤し、夜七時ないし八時ごろまで営業担当社員の部屋にいたこと、被告中村は、営業担当社員が前記二1(二)のとおり、作戦会議と称して各被害者への売り付けの方法や内容を検討するに当たって直接関与こそしなかったものの、同じ部屋にいてその内容は聞知していたこと、また、前記二1(三)のとおり、地図、新聞等を利用し、幹部社員に演壇に立って虚偽の内容を告げて被害者を勧誘する東和主催の物件説明会というものが月に二回ないし四回程度開かれていたが、被告中村はこれに必ず出席していたこと、被告中村は、取引二におけると同様のパーティーにも必ず出席していたこと、被告中村自身も営業活動をしたことがあること、以上の事実が認められる。そうすると、被告中村は、少なくとも東和における会社ぐるみの営業システムについては十分認識し、これを容認したうえで、東和の社員として右(一)のとおりの役割を果していたものと認めることができる。

そこで、進んで、被告中村が、本件各土地の価値が極めて低く、かつ、各取引の当時においても価格の高騰は到底見込めなかったことについてまで認識していたか否かを判断するに、右のとおり、被告中村は、東和における会社ぐるみの営業システムについては十分認識し、これを容認したうえで、東和の社員として右(一)のとおりの役割を果していたものであるところ、前記二のとおり、東和の営業活動は、組織的かつ周到に準備をし、観劇に誘う等の手段で被害者を集めたうえで、物件が二、三年後には必ず倍以上に値上がりする、二、三年後には東和において買値の倍以上の価格で転売の仲介をするか、買い戻す等と断定的な文言を申し向ける等して被害者を勧誘するものであって、それ自体通常の営業活動の範囲を逸脱したものであったと評価できること、《証拠省略》によれば、被告中村は、宅地建物取引主任者の資格を昭和四七年に取得して以来、土地または建物の販売をしている会社で宅地建物取引主任者として仕事をした後、東和に入社したものであって、東和に入社した当初から、不動産についての知識を相当程度有していたと認められること、前記六1のとおり、新聞広告を見て昭和五七年一〇月に東和に入社するまで不動産取引を業とする会社に勤務したことがない者ですら昭和五八年一月ごろには東和の詐欺商法に気付いていたこと、さらに、《証拠省略》によれば、被告中村は、宅地建物取引主任者として取引の対象となる土地について情報を収集する立場にあったことを合わせ考慮すると、遅くとも本件取引一の時点において、被告中村は、本件各土地の価値が極めて低く、かつ、各取引の当時においても価格の高騰は到底見込めなかったことについても十分に認識していたものと認めるのが相当である。

なお、被告中村は、取引一ないし四が行われた当時、右各土地が無価値であることを知らなかった旨供述し、前記四のとおり、被告中村は、昭和五七年七月ごろ、土地二及び三付近の土地を、昭和六〇年四月ごろ、土地四付近の土地をそれぞれ購入したことが認められ、しかも、前記のとおり、東和は、新聞広告により採用した新入社員に対しても会社の物件を騙して買い付けさせていたことが認められるから、昭和五七年七月ごろの売買は被告中村も騙されて行ったものである可能性がないではない。しかし、右のとおりの中村の経歴や、東和に入社するまで不動産取引を業とする会社に勤務したことがない者ですら、入社後三か月で詐欺商法の実態に気付いていた事実に照らすと、たとえ右時点で東和から騙されていたとしても、少なくとも土地一についての重要事項説明書を作成した昭和五七年一一月一四日までには、前記のとおりの土地の価値について十分認識していたと認めるのが相当であるから、被告中村の前記供述は到底信用できない。

また、《証拠省略》中には、現在も本件各土地の価格は妥当であると考える旨の供述部分がある。しかしながら、その根拠としては、本件各土地が、東京の土地と比較して安かったという趣旨が述べられているのみで、土地の価格を妥当と思ったことにつき何ら具体的根拠が示されていないから、到底右認定を覆し得るものではない。

そうすると、被告中村は、本件各土地の価値が極めて低く、かつ取引の当時においても価格の高騰が到底見込めなかったことを含めて、東和の会社ぐるみの営業システムについて十分認識し、これを容認したうえで、右(一)のとおりの役割を果し、東和の原野商法に加担していたものであるから、原告に対し、不法行為責任を負うものと言わなければならない。

(2) また、仮に、被告中村が、本件各土地の価値が極めて低く、かつ、取引の当時においても価格の高騰が到底見込めなかったことについてまでは認識していなかったとしても、右(1)のとおり、被告中村は、東和における会社ぐるみの営業システムについては十分認識し、容認したうえで東和の社員として前記(一)のとおりの役割を果たしていたことが認められるのであり、これに東和の営業活動は、それ自体通常の営業活動の範囲を逸脱したものであったと評価できること、被告中村は、東和に入社した当初から、不動産についての知識を相当程度有していたと認められること、被告中村は、宅地建物取引主任者として取引の対象となる土地について情報を収集する立場にあったことを合わせ考慮すると、被告中村が本件各土地の価格が極めて低く、かつ、各取引の当時においても価格の高騰は到底見込めなかったこと等については容易に知り得る立場にあったことは明白であり、被告中村はそれにもかかわらず、不注意にも本件各取引に前記のとおり加担したものであるから、本件各取引によって、原告が損害を被ったことにつき、少なくとも重大な過失があったものというべきである。そうすると、被告中村は、前同様不法行為責任を免れることはできない。

(3) もっとも、前記二1(三)、(四)認定のとおり、被告中村は、営業担当社員において被害者に物件を買おうという気持ちを起こさせた後に、被害者に対して物件に関する重要事項の説明をしていたものであるし、前記三認定のとおり、本件取引一ないし四においても、被告中村は、重要事項説明書を作成し、売買契約書に記名押印したのみで、原告に対して直接土地一ないし四について口頭で具体的に説明したわけではないから、これら被告中村の行為が原告が本件各取引を行う意思を決定するのにどの程度の影響を及ぼしたか、換言すれば、被告中村の行為と原告の本件各取引による損害との間に厳密な意味での因果関係があるか否かについては問題がないわけではない。

しかしながら、前記(一)のとおり、被告中村は、本件各取引において、被告鎌倉、高田、安藤とともに東和の行った原野商法の重要な一部分を担ったものと評価できること、前記(二)のとおり、その際、被告中村は、自己がそのような役割を果たしていることを十分認識、容認していたと認められ、かつ、本件各土地の価値が極めて低く、各取引の当時においても価格の高騰は到底見込めなかったことについても認識し、または、少なくとも認識できなかったことについて重大な過失があったと認められることを総合考慮すれば、たとえ被告中村の行為と原告の損害の間に厳密な意味で個別的因果関係が認められないとしても、被告中村は主観的共同による共同不法行為者として、本件取引一ないし四において原告が被った損害について、被告鎌倉らと連帯して、損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。

(4) なお、また、原告は、被告中村は、少なくとも被告鎌倉らによる不法行為の幇助者としての責任を負うと主張するので、これについても判断する。被告中村は、本件各取引において、前記のとおり、売買契約書をチェックし、原告に対し、重要事項説明書を作成して営業担当社員らを通じてこれを交付する形で関与したものであり、これは前記(一)のとおり、原野商法の中でも重要な役割を占める行為であるから、少なくとも被告中村の右行為が被告鎌倉らが原告との間で本件各取引を行うことを容易ならしめたことは明らかである。そうすると、被告中村が、被告鎌倉らの行った不法行為の幇助者として、本件取引一ないし四において原告が被った損害について、被告鎌倉らと連帯して、損害賠償責任を負うことは言うまでもない。

七  損害額について

1  請求原因5(取消の意思表示)の事実については、裁判所に顕著であるので、その効力について判断するに、前記三及び五認定のとおり、本件取引一ないし四は、いずれも、土地一ないし四が極めて価値の低い土地であり、値上がりの見込みもないのに、これあるかのように申し向けて原告を欺罔し、その旨原告を誤信させて、原告をして土地一ないし四を買い受けさせたというもので、詐欺に該当するところ、右各行為はいずれも、東和の従業員である被告鎌倉、高田、安藤によって行われたものであって、東和による詐欺行為と評価できるから、東和の代表取締役である被告中村に対して行った前記詐欺に基づく取消の意思表示は有効である。

2  そこで、取引一ないし四における損害額を判断する。

前記三認定の事実及び《証拠省略》によれば、原告が被告らの不法行為により、売買代金及び所有権移転登記手続費用として前記三1、2の各(四)、同3、4の(二)各認定の金員を支払ったことが認められるが、他方、原告が、売買の目的物である土地一ないし四の所有権を取得したことも認められる。

しかし、右1のとおり、取引一ないし四において締結された売買契約はいずれも有効に取り消されたことが認められるので、土地一ないし四の所有権は、右取消の時に東和に復帰したものであり、結局、取引一ないし四においては、原告が支出した代金及び費用額がそのまま損害額となる。

よって、取引一ないし三について被告鎌倉が賠償すべき損害額は、四六八万九一〇円、取引一ないし四について被告中村が賠償すべき損害額は、五八九万八六六〇円となる。

3  次に、取引五における損害額について判断する。

前記三認定の事実及び《証拠省略》によれば、原告が被告鎌倉らの不法行為により、売買代金及び所有権移転登記手続費用として前記三5(二)認定の金員を支払ったことが認められるが、他方、原告が、売買の目的物である土地五の所有権を取得したことも認められる。

原告は、土地五は利用可能性ないし換金可能性はなく無価値と評価すべきものであり、右土地の価格は原告の支出額より控除すべきものでない旨主張しており、右土地の価格ないし価値が極めて低いものであること前記認定のとおりであるが、無価値であるとまでは言い難い。

そうすると、原告の損害額は、原告が支出した代金及び費用額から、土地五の価額を差し引いたものであると認められるところ、本件全証拠によっても土地五の価額が、前記四において認定した八千代の仕入れ額である平米単価一〇〇六円、合計六万六三九六円を上回ることを認めることはできない。

よって、取引五について被告鎌倉が賠償すべき損害額は、原告が右取引のために支出した八〇万六一〇〇円から右六万六三九六円を差し引いた七三万九七〇四円と認められる。

4  また、事案の難易、請求金額、認容金額、その他諸般の事情を斟酌すると、右一連の被告らの不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては、取引一ないし三について、合計五〇万円、取引四及び五について、各一〇万円をもって相当と認める。

八  以上の次第で、原告の本訴請求は、取引一ないし三について、被告らに対して各自五一八万九一〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年三月一日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、取引四について、被告中村に対して一三一万七七五〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年三月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、取引五について、被告鎌倉に対して八三万九七〇四円及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年三月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、被告鎌倉に対するその余の請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条但書、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福井厚士 裁判官 川口代志子 後藤健)

〈以下省略〉

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